洲本簡易裁判所 昭和28年(ニ)1号 判決
再審原告 宗教法人隆泉寺
再審被告 秦繁一
一、主 文
当裁判所が昭和二十八年(ロ)第一六号請負代金請求督促事件につき、同年二月九日なした仮執行の宣言を付した支払命令は、これを取消す。
再審被告の請求を棄却する。
右督促事件の督促手続費用並びに再審訴訟費用は再審被告の負担とする。
二、事 実
再審原告訴訟代理人は、主文と同趣旨の判決を求め、
その理由として、
「(一) 再審被告は、昭和二十八年二月六日再審原告(その代表者を再審原告の当時の代表役員訴外安田本信とする)を債務者として洲本簡易裁判所に請負代金請求の支払命令の申立をなし(主文第一項掲記の督促事件)、同裁判所は、同月九日右申立を許容して、再審原告は、再審被告に対し金百三十二万円及びこれに対する昭和二十五年三月一日より支払ずみに至るまで月六分の割合による金員を支払えとの支払命令をなし同支払命令正本は、昭和二十四年二月十二日右訴外人に送達せられたが、右訴外人において、法定期間内に異議の申立をしなかつたので、同裁判所は、再審被告の申立により、同月二十七日仮執行の宣言をなし、その仮執行宣言付支払命令正本は、同年三月一日右訴外人に送達せられたが、右訴外人において再び法定期間内に異議の申立をしなかつたので、右支払命令は同月十五日の経過と同時に確定し、確定判決と同一の効力を有するに至つた。
(二) 右支払命令申立の請求原因は、再審原被告間の昭和二十四年十月二日成立の請負契約によつて、再審被告が再審原告のためなした公民館様の建物の建築請負工事のうち、第一期工事(昭和二十五年一月三十一日完成)の請負報酬金百三十二万円及びこれに対する昭和二十五年三月一日より支払ずみに至るまで約定の月六分の割合による遅延損害金の支払を求めるというにある。
(三) けれども、右請負契約は、再審原被告間に成立したものではなく、右訴外安田本信個人と再審被告間に成立したものであるから、右請負契約における請負報酬金債務は、右訴外人個人においてこれを負担すべきものである。しかるに、再審被告と右訴外人は共謀の上、再審原告をして右報酬金債務を負担させ、もつて、右訴外人の債務を免れしめる目的で、再審被告において、前記のように、再審原告(その代表者を右訴外人とする)を債務者として前記支払命令の申立をしたものである。
されば、右督促事件において、再審被告の申立が認容せられるときは、再審原告の不利益となるに反し、右訴外人の利益となり、右申立が排斥せられるときは、その反対の結果を生ずるわけである。故に、右督促事件の訴訟の目的である右請負報酬金債務の法律関係は、宗教法人法第二十一条第一項にいわゆる代表役員と宗教法人との「利益が相反する事項」に該当するものであると解する。従つて、右督促事件においては、右訴外人は、右規定により、再審原告の代表権を有しないものであるといわなければならない。
(四) 仮に、右請負契約が、再審被告と右訴外人個人との間に成立したものでなく、又右両者に前記共謀の事実がなく、右請負契約が、再審被告主張の前記日時に再審被告と再審原告の代表者としての右訴外人(当時再審原告の主管者であつた)との間に成立したものであるとするも、再審原告の請負報酬金債務の負担を内容とする右請負契約を締結するには再審原告寺の主管者たる右訴外人において当時施行中の宗教法人令第十一条第一項第二号により再審原告の檀徒総代(当時の檀徒総代は訴外井上繁雄、同谷池重吉及び同西田歳次郎の三名)の同意並びに再審原告の所属宗派(再審原告の所属宗派は昭和二十七年十月二日までは法華宗その後は法華宗(本門流)である)の主管者の承認を得ること要するにかかわらず右訴外人は、右同意並びに承認を得なかつたから、同条第二項により、右請負契約は、無効である。しかして、右の場合において、再審被告が善意無過失であるときは、同条第三項により、右請負契約を締結した主管者たる右訴外人は、再審被告の選択に従つて、再審被告に対し右請負契約の履行又は損害賠償の責に任ずることとなるので、前同様、右訴外人は本件督促事件においては、再審原告と利益相反する関係に立つことになり、従つて、宗教法人法第二十一条第一項により右事件においては、再審原告を代表する権限を有しないものであるといわなければならない。
(五) 以上のように、右訴外人は、右督促事件においては、再審原告の代表権を有しなかつたものであり、これは、民事訴訟法第四百二十条第一項第三号に該当するので、再審原告は、再審被告に対し、本訴に及んだ次第である。」
と述べ、
再審の理由に対する再審被告の抗弁(3) に対し、
「再審被告の既判力についての法律上の見解は、再審の訴に関する限り誤つた見解であるから、右抗弁は理由がない。」
と述べ、
再審被告の本案の請求原因に対する答弁並びに抗弁として、
「(い) 再審被告の主張事実のうち、再審被告がその主張の営業を営んでいるものであること及び再審原告が再審被告主張のような宗教法人であることは認めるが、再審被告主張のその余の事実は全部否認する。
(ろ) 再審被告主張の請負契約は、再審原告が前記再審の理由(三)において述べたように、再審原被告間に成立したものではなく、当時再審原告の主管者であつた前記訴外安田本信個人と再審被告間に成立したものであるから、再審原告は、右請負契約上の責任を有しないものである。
(は) 仮に然らずして、右請負契約が、再審被告主張の日時、再審被告と再審原告寺の代表者としての右訴外人(当時再審原告寺の主管者であつた)との間に成立したものであるとするも、再審原告が前記再審の理由(四)において述べたように、右訴外人において、宗教法人令の規定により、右契約につき再審原告の檀徒総代の同意並びに再審原告の所属宗派の主管者の承認を得ていないから、右契約は、右宗教法人令により無効である。
(に) よつて、再審被告の本案の請求は失当である。」
と述べた。<立証省略>
再審被告訴訟代理人は、「再審原告の訴を却下する。再審訴訟費用は、再審原告の負担とする。」との判決を求め、
再審の理由に対する答弁並びに抗弁として、
「(1) 再審原告主張事実のうち、その主張の(一)及び(二)の各事実はこれを認めるが、(三)及び(四)の各事実はこれを否認する(但し(四)の事実のうち、本件請負契約当時の再審原告の檀徒総代が再審原告主張の者等であつたことは認める。)
(2) 本件請負契約は、その締結当時再原告の主管者であつた前記訴外安田本信において、右契約につき再審原告の檀徒総代の同意並びに再審原告の所属宗派の主管者の承認を得たものである。仮に然らずとするも、その後において右同意並びに承認がなされたものである。故に、再審原告は、本件請負契約における報酬金債務を負担すべきものである。従つて、右債務につき再審原告と右訴外人との間に再審原告主張のような利益相反する関係を生ずる余地なく、これを前提とする再審原告の右(三)及び(四)の各主張は理由がない。
(3) 仮に然らずとするも、本件支払命令は、既に確定し、確定判決と同一の効力を有するに至り、従つて、既判力を生じたものである。しかるに、再審原告主張の前記(三)及び(四)の各事由は、本件支払命令確定後に生じた事由ではなく、その確定前に生じた事由であるから、再審原告は、本件督促事件において、異議の申立をなし、訴訟として係属せしめた上、該訴訟の口頭弁論において右各事由を主張すべきであつたのにかかわらず、この挙に出ないで、異議申立期間を徒過し、その結果、本件支払命令を確定するに至らしめたものであるから、今更同一訴訟物につき、再審の訴をもつて、右各事由を主張するのは、右既判力に反するものであり、裁判所もまた右各事由を審理して既に確定した本件支払命令の内容に牴触する判断を下すことは、右既判力に反するものである。この点よりするも、再審原告の前記(三)及び(四)の各主張は理由がない。
(4) 以上の次第であるから、本件督促事件においては、右訴外人は、再審原告の適法になる代表権を有していたものというべく、従つて、本訴は、再審の事由がないものとして却下せられるべきである。」
と述べ、
本案の請求原因として、
「(一) 再審被告は、材木販売並びに建築請負を業とする者であり再審原告は、兵庫県三原郡津井村の大部分の村民を檀徒とする宗教法人であるところ再審原告は、同村民の社会教育及び宗教上の各種行事挙行に供するため、宗祖日蓮上人七百年祭の記念事業として、再審原告の所在地に近接して公民館様の建物を建築することとなり、再審被告を請負人として、再審被告との間に、(イ) 再審被告は、図面設計書に基き再審原告注文の公民館様の建物の建築工事を報酬金二百二十万円で請負うこと、(ロ) 再審原告は、再審被告に対し右報酬金を二回に分割して支払うこと、すなわち、その第一回分は、第一期工事(表がこい終了まで)完了の際、同工事に対する報酬金を支払い、第二回分は、その余の工事完成した際、その残工事に対する報酬金を支払うこと、(ハ) 再審原告が報酬金の右各支払をその支払期より一カ月徒過したときは、当該支払金額に対し月六分の割合による遅延損害金を支払うことという内容の請負契約を締結した。
(二) そこで、再審被告は、右契約に基き、直ちに建築工事に着手し、昭和二十五年一月三十一日に前期第一期工事を完了したので、再審原告に対し前記約定により、同工事に対する報酬金百三十二万円の支払を請求したところ、再審原告は、これが支払をなさず、その後再三の請求にもかかわらず、支払をしなかつた。
(三) よつて、再審被告は、再審原告に対し右報酬金百三十二万円及びこれに対する昭和二十五年三月一日より支払ずみに至るまで前記約定の月六分の割合による遅延損害金の支払を求める。」
と述べ、
本案の請求原因に対する再審原告の答弁並びに抗弁に対し、前記再審の理由に対する再審被告の答弁並びに抗弁(2) 及び(3) と同旨に陳述した。<立証省略>
三、理 由
第一、再審事由の存否について、
再審原告主張の(一)及び(二)の各事実は、当事者間に争がない。
そこで、まず、係争の本件請負契約が原告主張のように訴外安田本信個人と再審被告との間に成立したものであるか、それとも、再審被告主張のように、再審原告と再審被告との間に成立したものであるかにつき判断する。
成立につき争のない甲第一号証、乙第二号証の二、八、証人登里貞夫、同山口和一、同安田本信(第一、二回、いずれもその一部)、同道上徳広(一部)の各証言、再審被告本人尋問の結果(一部)及び弁論の全趣旨を総合すれば再審原告は、昭和二十七年十月二日までは法華宗、その後は法華宗(本門流)に所属する宗教法人であつて、訴外安田本信は、約三十年前より昭和二十八年四月三日まで再審原告の住職に就任し、その間宗教法人令による主管者、宗教法人法による代表役員として夫々再審原告を代表し、右日時住職を退いて現在の代表役員訴外日種正禎と交替したものであること及び右訴外安田本信は、昭和二十三年宗祖日蓮上人七百年祭にあたり、法華宗所属の各寺において、何らかの記念事業をやらねばならぬことになつていた折柄、再審原告所在の兵庫県三原郡津井村には小学校に講堂もなく、村民の各種集会及び行事等を挙行する公民館式の建物の必要切なるものがあつたので、村民の有志多数と相はかり、再審原告の右記念事業として右建物を再審原告の所有として建築しようと企図し、昭和二十四年十月二日再審原告の代表者(当時右訴外人は、再審原告の宗教法人令による主管者であつた)たる資格をもつて、再審被告との間に右建物の建築につき、再審被告主張のような内容の請負契約を締結したことが認められ、証人谷池重吉の証言中右認定に反する部分は措信し難く、他に右認定を左右するに足る証拠はない。
右認定の如くであるから、本件請負契約は、再審原告主張のように、訴外安田本信個人と再審被告との間に成立したものではない。従つて、その両者間に成立したことを前提とする再審原告の前記(三)の主張は、その余の点につき、判断するまでもなく、理由はない。
そこで、進んで、再審原告の前記(四)の主張の当否につき判断する。
前認定のように、本件請負契約は、当時の再審原告の主管者であつた右訴外人において、再審原告の代表者たる資格をもつて、締結したものである。しかして、当時施行中の宗教法人令第十一条一項第二号の規定によれば、宗教法人である寺院が「借財又は保証」をなさんとするときは、檀徒総代の同意を得ることを要し、なお、当該寺院が宗派に属するときは、その所属宗派の主管者の承認を受けることを要する。右規定にいわゆる「借財」とは消費貸借による金銭借入のみでなく、社会観念上これに準ずべきものをすべて包含すると解するを相当とするから、本件請負契約における再審原告の報酬金支払債務の負担行為は、右にいわゆる「借財」に該当するというべきである。故に、右規定により再審原告は、本件請負契約につき、檀徒総代の同意並びに所属宗派の主管者の承認を得ることを要したわけである。本件請負契約当時、再審原告の檀徒総代が訴外井上繁雄、同谷池重吉及び同西田才次郎の三名であつたことは、当事者間に争がないが、前記証人安田本信(第一、二回、いずれもその一部)、同井上繁雄、同谷池重吉の各証言及び再審被告本人尋問の結果(一部)を総合すれば、本件請負契約については、再審原告は、右檀徒総代の同意並びに所属宗派の主管者の承認を得なかつたものであることが認められ証人浜口惣吉、同道上徳広の各証言中、右認定に反する部分は、たやすく信用し難く、他に右認定をくつがえすに足る証拠はない。
再審被告は、本件請負契約につき、その成立当時右檀徒総代の同意並びに所属宗派の主管者の承認を受けなかつたとするも、その後において、右同意並びに承認がなされた旨主張するけれども前記証人道上徳広の証言及び再審被告本人尋問の結果中、右主張事実に照応する部分は、いずれも、前記各証人井上繁雄、同谷池重吉(一部)及び同安田本信(第一、二回いずれもその一部)の各証言に照して、措信し難く、乙第二号証の十は、未だこれのみにより檀徒総代訴外谷池重吉、同西田才次郎が本件請負契約に対し事後同意をした事実を認定するには足りないし、他に再審被告の右主張事実を認めるに足る証拠はない。
右認定のように、再審原告は、本件請負契約につき、その締結にあたり又その後においても、檀徒総代の同意並びに所属宗派の主管者の承認を得たものでないから、右契約は、宗教法人令第十一条第二項により無効であるといわなければならない。しかして右の場合において、再審被告が善意無過失であるときは、同令第十一条第三項により、右契約をした再審原告の主管者たる前記訴外安田本信は、再審被告の選択に従つて、再審被告に対し右契約の履行又は損害賠償の責に任ずることになる。
前記認定のように、右訴外人は、本件督促事件の支払命令申立のなされた時以前よりその確定した後の昭和二十八年四月三日まで、再審原告の宗教法人法による代表役員として再審原告を代表していたものであるが、右のように、再審被告の選択に従い、再審被告に対し本件請負契約の履行又は損害賠償の責に任ずべき法律関係にあるものであるから、本件督促事件において、再審被告の支払命令申立が認容せられるときは、再審原告において本件請負契約の報酬金支払債務を負担せねばならなくなるに反し、右訴外人は、再審被告に対する右履行又は損害賠償の責任を免れるに至り、又右申立が排斥せられるときは、再審原告は、右債務を負担しないこととなるに反し、右訴外人は、再審被告より右責任を追及せられるべき立場におかれるに至る。すなわち、本件督促事件においては、再審被告の申立どおりの支払命令がなされて、それが確定するかどうかにつき、再審原告と右訴外人とは利害相反する関係に立つのである。しかして宗教法人法第二十一条第一項前段の規定により「代表役員は、宗教法人と利益が相反する事項については、代表権を有しない。」ものであるところ、右にいわゆる「利益が相反する事項」とは、当該代表役員と当該宗教法人との間の法律行為に限るのではなく、両者の実質的利益が相反する場合をもすべて包含するものであると解するを相当とするから本件督促事件の訴訟の目的である右報酬金債務の法律関係すなわち、同事件の本案は、右規定にいわゆる「利益が相反する事項」に該当するものであるというべきである。故に、右訴外人は、同事件の本案につき、従つて、同事件につき再審原告を代表する権限を有しなかつたものであると断定しなければならない。(もつとも、右の場合、宗教法人法第二十一条第一項後段の規定により再審原告の仮代表役員が選任せらるべきであるが、その選任のなされなかつたことは弁論の全趣旨により明である。)
そこで、再審被告主張の前記(3) の既判力の抗弁について判断する。
思うに、再審の訴は、確定の終局判決(本件のような確定判決と同一の効力を有する仮執行宣言付支払命令も同じ)に一定のかしあることを理由として、その判決の取消を求め、且訴訟をそのかしある判決前の原状に復して更に弁論並びに裁判をなさしめる非常の不服申立であつて、適法な再審の訴の提起があれば、裁判所は、その不服にかかる裁判をなした前の程度に復し、更に審理並びに判決をなすことができるに至る。けれども、このことあるの故をもつて、再審の訴があれば、これにより確定判決の既判力も執行力も当然消滅に帰し、確定判決は、不確定の状態に復するものではない。しかし、再審の訴が提起されたときは、確定判決の既判力は、再審の訴の右の性質及び再審事由の如何により一定の限度において、その本来の効果を制限せられるものであると解する。
今本件につきこれをみるに、再審原告が本件再審の訴訟において主張した本件請負契約は、再審原告の檀徒総代の承認並びに所属宗派の主管者の同意を得なかつたから無効であるということや訴外安田本信は、再審原告と利益相反する関係にあるから、本件督促事件において再審原告の代表権を有しなかつたものであるということなどは、再審被告主張のように本件支払命令確定前に存した事由である。けれども、前記のように、訴外安田本信は、本件督促事件においては、再審原告の代表権を有せず、なお、同事件において、再審原告の仮代表役員は選任せられなかつたから、再審原告において右各事由を主張することは、全く不能の状態にあつたものといわなければならなぬ。しかして、かような場合には再審の訴訟において、再審原告は、右各事由を主張することはできるものと解する。すなわち、確定した本件支払命令の既判力の効果は、右限度において制限を受けているものと解する。故に、再審被告の前記既判力に関する抗弁は理由がない。
以上の如く、本件督促事件においては、右訴外人は、再審原告の代表権を有しなかつたものであるから、民事訴訟法第四百二十条第一項第三号に該当し、再審事由はこれを肯定すべきである。
第二、再審被告の本案請求の当否について、
再審被告主張の日時、再審原被告間に、再審被告主張のような内容の請負契約が成立したことは前段認定のとおりである。
再審原告は、右請負契約は、再審被告と訴外安田本信個人との間に成立したものであると主張するけれども、その然らざることは、前認定のとおりである。
再審原告は、仮に、右請負契約が再審原被告間に成立したものであるとするも、再審原告は、右契約につき、檀徒総代の同意並びに所属宗派の主管者の承認を得なかつたら、右契約は、無効であると抗弁し、再審被告は、これに対し、右契約当時右同意並びに承認がなされたものである、仮に然らずとするも、その後においてなされたものであると抗争するけれども、右契約についてはその成立の当時においても、その後においても右同意並びに承認のなされなかつたことは、前段認定のとおりである。
再審被告は、再審原告の右抗弁事実の主張は、確定した本件支払命令の既判力に反する旨主張するけれども、その理由のないことは前説示のとおりである。
右のように、右請負契約は無効であるから、その有効であることを前提とする再審被告の本案請求は、再審被告主張のその余の点につき判断するまでもなく、失当である。
第三、結論
以上の次第であるから、当裁判所が本件督促事件につき、昭和二十八年二月九日なした仮執行の宣言を付した支払命令はこれを取消し、再審被告の本案請求を棄却し、右督促事件の督促手続費用並びに再審訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八十九条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 安部覚)